『アールデン系 第1弾』                  

”スカウトレンの英雄伝説”

 ヤン・アールデン系とはいったいどんな血統から出来ているのでしょうか?今から半世紀前、第二次世界大戦中のことです。オランダはドイツに占領されていました。オランダのレース鳩もドイツ軍に没収され、ウィールマークトに設置されたロフトに全部入れられていたのです。ある夜、スカウトレンという男がここに忍び込み2羽の鳩を盗んできました。もちろん、見つかれば銃殺という命がけの行為だったのです。彼の持ち帰った2羽が今日のヤン・アールデン系や他のオランダ長距離系の源になったモーゼサールです。ですから、これ以上の系統をたどることは不可能です。ただ、見たところはデルバール系に似ているので多くの人がデルバール系ではないかと推測しているにすぎません。

 戦後、スカウトレンの英雄伝説は瞬く間にオランダ中に流布されました。さらに“モーゼ“と”サール“から誕生した”ド・86号“が49年のサンバンサンN優勝を成し遂げたことにより、実力も又一流であるとの折り紙がつけられたのです。モーゼとサールは、後にスカウトレンの近所に住むメースタースに導入されました。メースタースはこの2羽を基に“ド・86”と“シルバーフォスイエ”という有名なカップルを作り上げ、その直子がヤン・アールデンの源鳩になったのです。

“モーゼ”と“サール” の系譜

 オランダの銘鳩収集家ポールマン氏によってモーゼとサールのエピソードは日本にも伝えられました。氏はインタービューの中で次のように答えています。「一切の源はスカウトレンであるにもかかわらず、現在ヤン・アールデン系と呼ばれているのは、ピート・デウェールトによるところが大きいと思います。著名なジャーナリストとしてヤン・アールデンとも親しかった彼が新聞に書いたからです。もちろん、ヤン・アールデン氏は素晴らしい鳩をもっていました。モーゼとサールの筋とは別にデルバール系を所有していて、有名な38、49号にはこの血が流れています。」

 モーゼとサールの血はス力ウトレンからメースタースへ、さらにヤン・アールデンへと流れて行きましたが、その他にもバーレンドレヒト、ファン・ヴァンローイのところへも流れていきました。さらに、バーレンドレヒトからウェスターヒュースがメースタースの鳩を手にいれたのです。ウェスターヒュースはこの系統の鳩“レディー”で79年のサンバンサンN優勝を達成しています。メースタースの“ド・86”と“シルバーフォスイエ”から生まれた“メースタース・ダィフケ”はファン・ヴァンローイの基礎鳩になりました。ヴァンローイの死後ヴァンローイの鳩はファンハーレンへ、そしてオーストロス、ヘンドリックスへと導入されることになります。ファン・ヴァンローイとヤン・アールデンの鳩の祖先は共にド・86とシルバーフォスイエのペアへと通じているのです。


図1 
『スカウトレン(モーゼとサール)をルーツとする血統の流れ』                                   中山改図

スカウトレンモーゼサール)   
   ↓ 
メースタース (ド・86とシルバーフォスイエが種鳩)   
│   
├→ バーレンドレヒト ────→ ウェスターヒュース 
│ (ド・30、ブラックが基礎鳩) 
│                 ┌→ フローインドウェイ兄弟 
│                 ├→ ファンデンブルフ親子 
│                 ├→ マライン・ファンギール 
│                 │   (ド・ドルが源鳩) 
│                 ├→ ヤン・ファンデパル 
├→ ヤン・アールデン ─→├→ ケース・デグロート 
│ (ド・86と                       ├→ A.リヒテンベルグ 
│  シルバーフォスイエの)    ├→ H.ファンアグトマール 
│          ↓                       ├→ ピート・ラーズローム 
│ (直子ウィットペン          ├→ ファンゼルデルン兄弟 
│      ・ドファーチェが源鳩) ├→ A.ファンデウェーゲン 
│                 │  (オード・ドファーチェが基礎鳩) 
│                 ├→ KO.ニッピス 
│                 └→ ヤン・デヴィールト 
│                    (ベルムト131が代表鳩) 
└→ ファン・ヴァンロイ ─→ ファン・ハーレン 
  (“メースタース・ダィフケ” │ │ (メースタース・ダィフケが基礎鳩) 
   が基礎鳩)       │ │┌→ オーストロス 
                │ └│(40羽のワンロイコレクションを所有)
                └→ └→ ヘンドリックス(2羽を導入) 
                   (ファン・ヴァンロイ作ド・90が基礎鳩) 


★ ”モーゼ”44-182-37 ♂   ☆ ”ド・ドル”67-2052951 ♂
★ ”サール”43-231-45 ♀    ☆ ”オード・ドファーチェ”58-314753 ♂
                    ☆ ”ベルムト131”65-568131 ♀
                    ☆ ”ド・90”63-1153190 ♀

”ヤン・アールデン血統”    −−2000.10.6−−

 オランダ中西部の小さな村ステーンベルゲンに住んでいたヤン・アールデンは鳩の導入をピート・デウェールトを通じて行っていました。49年、ベルギーのデフフロイからデルバール鳩を、又地元の強豪ストックからもデルバール鳩を手に入れ、そのペアから生まれた遅生れの雌鳩が2歳でサンバンサンN6位に入りました。さすがデルバール鳩と周囲が驚嘆したこの鳩は間もなく死んでしまいましたが、その妹は残りました。

 時を同じくして手にいれたメースタースの“ド・86”と“シルバーフォスイエ”の直子である“へット・ウィットベン・ドファーチェ”(=”ラーテ・メースタース”)と先のデルバール系のサンバンサンN6位の妹との交配が行われたのです。このペアからあの有名なド・37、ド・38、ド・49、ド・56が、また、このへット・ウィットベン・ドファーチェ”とアールデン所有のデルバール系の交配からボンテ・ドイビンなどが世に送りだされていきました。

 ド・38とド・49はそれぞれ近親交配され、その子達はレースで性能を試された後、その中でも最も優秀な鳩を選んで、再度ド・38やド・49と掛け合わせたのです。こうして出来上がった子達がヤン・アールデン系としてオラング長距離鳩の形成に欠くことのできない役割を担うことになりました。

 58年のヤン・アールデンの死後、彼の名声はより一層高まりました。現在のオランダ長距離鳩の大部分は先祖を遡るとアールデン作のどれかの鳩に行き着くといっても過言ではないのです。

図2『ヤン・アールデンの代表基礎鳩陣(50年生)』


                                (“ゼスエンタハタッハ”)
                      ―“ド・86”
 
    ――“ラーテ・メースタース”――――|   H47-433486
      (“ウィットペン・ドファーチェ”)  |
         |                          
“シルバーフォスイエ”
    |                            H47-433488

H50-349737“ゼーフェンエンデルタッハ”(37の意味)          

H50-349738“アハトエンデルタッハ”  (38の意味)  

H50-349749“ネーヘンエンフィアタッハ” (49の意味)

H50-349756“ディーペ・メース”(濃い色のしじゅうからの意味)

   |
    ――  デルバール系(ストック・デフフロイ経由の)

 

※ 以上、「愛鳩の友 1999年4月号 p152〜p154より 一部改」

 

”シルバーフォスイエ” H47-433488 BC ♀ の紹介


翔歴)

*1949年 3位 ダックス

*1950年 2位 ダックス
       55位  サンバンサン

*1951年 27位 ダックス
       47位 サンバンサン

注) 次回第2弾で紹介する”ド・37”(H50年生れの全兄弟姉妹4羽)は”シルバーフォスイエ”の孫である。また、第3弾で紹介する”ベルムト131”は”ド・37”の孫である。